日本の現状 (2018.10更新)
1.法律の現状
(1) 日本の法律はどうなってるの?
日本国憲法24条には、結婚が「両性の合意」のみにもとづいて成立すると書かれています。この「両性」が男女のみを指すのか、男男・女女などの同性同士も含むのかは学者によって解釈が分かれるところですが、憲法が同性婚自体を禁止しているわけではありません。また、民法や戸籍法においても、婚姻が異性カップルにのみ成立すると規定する条文はありません。ただ、現行の日本では結婚は男女間に限られており、同性同士で婚姻届を役所に提出しても受理されません。そもそも婚姻届の氏名欄には左側に「夫となる人」、右側には「妻となる人」の記入欄があり、「夫となる人」には戸籍上の男性、「妻となる人」には戸籍上の女性しか記入することができない様式になっています。また、性同一性障害者特例法でも、性別を変更する条件のひとつに「現に婚姻をしていないこと」が規定されています。結婚したままで戸籍の性別を変更すると法的に同性同士の「夫婦」という位置づけになるため、これを避ける目的で入れられた条件なのです。
(2)国や役所はどう考えてるの?
国も役所も、結婚は男女間に限られているとみています。たとえば法務省は、外国で結婚する場合にときどき必要となる「婚姻要件具備証明書」のひな形に、2002年から相手の性別を記載する欄が新設しました。これは同性間でも結婚できる国(当時はオランダのみ)が出現したために、日本での混乱を避けるために付け加えられたものです。また、出入国審査で使われる『入国・在留審査要領』では、配偶者ビザの発給対象が法律婚をした異性カップルに限られています。外国で有効に結婚した同性カップルや事実婚の異性カップルは対象外としてわざわざ明記されているのです。ただし、大阪府のように公営住宅に同性カップルとしての入居を認めている自治体もあります。
(3)裁判所はどう考えてるの?
裁判所では、結婚が異性カップルに限られるかどうか、正面から争われた例は見当たりません。ひとつの考え方が示されたものとして、外国籍のMtFの女性と、その事実を知らずに結婚した日本国籍の男性との結婚関係が無効と判断された裁判例があります。この判決の中で裁判所は、「男性同士ないし女性同士の同性婚は、男女間における婚姻的共同生活に入る意思、すなわち婚姻意思を欠く無効なもの」と述べています。ただし、配偶者間暴力防止・被害者保護法(いわゆるDV法)の対象となる事実婚カップルに、女性同士のカップルが含まれると判断された例も知られています。
2.現行法上の選択肢と問題点
(1)成人間の養子縁組制度を利用する
日本では、成人同士では、とても簡単に養子縁組をすることができます。条件としては年長者が養親になれなければならないことくらいで、年齢差にも制限はなく、裁判所の許可も必要ありません。法律上は親子関係になってしまいますが、親子という「家族」になることで、相続や社会保障などを受けることができるようになります。ただ、これは厳密には制度の趣旨から外れる使い方ですので、トラブルになった時には、他の親族から養子縁組の無効確認が提起されることも考えられ、安定した関係とはいえません。
(2)公正証書を利用する
公正証書は、法律の専門家である公証人が作成する、高い証明力をもつ公文書です。「共同生活と遺言に関する合意書」のような形で、お互いの財産の権利関係や相続、万が一の時の医療行為への同意権などの合意を公正証書にすることができます。これを専門的に仲介する法律事務所もあり、利用件数は年々増加しています。ただ、この公正証書が社会生活の上で、とくに第三者に対してどれだけの効力をもつのかはあいまいなので、結婚することとは大きな隔たりがあります。
3.法的保障に向けた動き
(1)どれくらいのニーズがあるの?
日本における同性カップルの生活実態や法的保障のニーズについては、これまでいくつかの調査が実施されてきました。代表的なものとして、「同性間パートナーシップの法的保障に関する当事者ニーズ調査」(血縁と婚姻を越えた関係に関する政策提言研究会)、「310人の性意識―異性愛者ではない女たちのアンケート調査」(性意識調査グループ)、「同性パートナーのニーズ調査」(RT2006調査プロジェクト)などがあります。
(2)議論の盛り上がりは?
同性同士のパートナーシップに対する法的保障については、さまざまな場面で議論がなされてきました。こういった先輩たちの思いを引き継ぎながら、パートナー法ネットワークとしての活動も盛り上げていきたいと思います。
特別配偶者法がないことによる生活上の問題
現在の日本では、同性間のパートナーシップを法的に保障するしくみが存在しません。そのことに伴う生活上の問題を、いくつか見てみましょう。
【財産】
同性カップルの共同財産について、カップルの片方が亡くなった際、現状では、生き残ったパートナーに対する法定相続権が認められていません。遺言(いごん)に基づいて残されたパートナーへ財産を遺贈(いぞう)することも可能ですが、その際も亡くなった人間の親や子は一定の相続分(法律上、「遺留分」と呼びます)を法的に主張できます。そのため、故人と実質的なパートナーシップを営んでいながら、残された同性パートナーは不利な立場に置かれがちです。なお、カップルで同居をしている際に、亡くなった人が単独で住宅の所有/賃借名義人である場合、残されたパートナーによる所有権/賃借権の承継が認められない危険性があります。その結果として、残されたパートナーが住む場所を失うケースもあります。
【公営住宅】
また、都道府県営住宅や市営・町営・村営住宅を規定する公営住宅法では、入居資格として「現に同居し、又は同居しようとする親族があること(婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者その他婚姻の予約者を含む。以下略)」と決められています(公営住宅法 第 23 条 1 号)。親族関係や婚姻が前提となっているこの規定のため、法律上「赤の他人」である同性カップルは現在、公営住宅に入居することができません。
【医療機関】
大きな病気や怪我による入院や手術などの重大な治療を受ける場合、法律上の家族(配偶者や親・子など)には面接権や医療上の同意権などが通常認められています。しかし、法律上の家族ではない同性のパートナーに対しては医療機関により対応がまちまちです。最悪の場合、同性パートナーに対する上記の面接権や医療上の同意権などが、医療機関によって拒否されるケースも存在します。
【民間企業によるサービス】
この他にも、民間企業によるサービスが法律上の家族や婚姻カップルを対象としている場合、同性カップルがサービスを受けられないケースが存在します。例えば、婚姻している男女カップルが住宅を購入する場合、多くの金融機関が提供する住宅ローンでは、カップル2人の合算収入に基づいて融資額が決まります。しかし、同性カップルの場合はカップル2人の収入が合算されません。その結果、同性カップルと婚姻している男女カップルがともに共働きである場合、融資を受けられる額において、婚姻している男女カップルに対して同性カップルは不利な状態に置かれています。
以上のように、法的保障の不備が同性カップルに対してもたらす生活上の不利益や不便は、非常に広範囲かつ大きなものであり、法制度の整備による解決が必要とされる所以です。